部分矯正は主に前歯の特定の気になる部分だけを動かして歯並びを治す治療です。部分矯正についてご説明します。
部分矯正と全体矯正の違い
部分矯正は前歯数本のみを治すための治療です。主に前歯2本~8本程度を動かすことが出来、軽度の不正咬合のみに適応可能です。
部分矯正と全体矯正の主な特徴は下記の比較表をご覧ください。
部分矯正 | 全体矯正 | |
メリット | ・前歯の気になる部分の歯並びだけを治す ・治療期間が短い ・費用を安く出来る |
・歯列全体を動かして治療出来る ・殆どの不正咬合を治すことが出来る ・奥歯の噛み合わせを治すことが出来る |
デメリット | ・主に前歯の矯正を行うので奥歯の矯正は出来ない場合がある ・噛み合わせは治せない ・重度の不正咬合(重度の出っ歯、受け口、八重歯、開咬)は治せない |
・上下左右の小臼歯合計4本の抜歯が必要なケースが多い ・治療期間が長くなる ・費用が高額になる |
治療可能な不正咬合 | ・軽度の出っ歯 ・軽度の叢生(ガタガタ) ・軽度の受け口 ・すきっ歯 |
・出っ歯 ・叢生(ガタガタ) ・八重歯 ・受け口 ・開咬 |
治療期間 | ・数ヶ月~1年程度 | 2年~3年程度 |
部分矯正の治療方法
部分矯正は主に下記の3種類の装置から選んで行います。不正咬合の種類や程度によって適切な装置を担当医がご説明します。
ワイヤー矯正
歯の表面に白いセラミック製のブラケットと呼ばれる小さな装置を貼り付け、細いワイヤーを通して力をかけます。ワイヤーも白いものを選べばあまり目立ちません。(※ホワイトワイヤーは別途料金がかかります)
部分矯正では数本の歯にブラケットをつけるだけです。
裏側矯正
ブラケットとワイヤーを歯の裏面につける方法です。当院ではインコグニトという装置を主に使用します。
慣れるまではお口の中の違和感により、食べにくい、話しにくい、歯磨きがしにくいということが起こりますが、2週間程度で慣れる方が多いです。
歯の裏面に装置をつけるため、他人から見えにくい装置です。
マウスピース矯正
薄い透明なプラスチックのマウスピースを7~10日程度で新しいものに付け替えて歯を動かして行きます。当院ではインビザラインという装置を主に使用します。
マウスピース1枚で歯を最大で0.25mm程度動かし、ゆっくりとした動きですので、痛みが少ないのが特徴です。1日22時間以上マウスピースを歯に装着する必要がありますので、時間を守れる方でないと治療計画通りに歯が動きません。
部分矯正の治療の流れ
部分矯正の治療の流れは以下のようになっています。
1. カウンセリング(初診相談)
問診票に記入して頂いた後、矯正のカウンセリングを行います。
iTero(3Dスキャナー)で口腔内スキャンを行い、歯並びや歯茎の状態をデータ化します。そのデータを3Dソフトに取り込み、液晶画面で見ながら、どのような治療になるのかの選択肢をご説明します。
※精密検査がまだなので、歯並びの目視と口腔内スキャンしたデータを見た限りでのお話になります。
もしこの段階で虫歯や歯周病があれば、矯正の前にそちらの治療を行います。
2. 精密検査
口腔内撮影やレントゲン撮影を行います。iTeroでの3Dスキャンがまだの方は、併せて行います。
3. 治療計画の説明
精密検査結果をもとに担当医が治療計画を立て、その内容を患者さんにご説明します。
患者さんが治療内容に同意された段階で治療がスタートします。マウスピース矯正インビザラインや裏側矯正インコグニトの場合はオーダーメイドの装置になりますので、装置が届く迄に2週間~1ヶ月ほどかかります。
4. 矯正治療開始
マウスピース矯正の場合は1枚目のマウスピースを歯に装着して頂き、付けたり外したりの練習を行います。次にマウスピースの取り扱いについて(交換頻度や装着時間、洗浄方法など)ご説明します。
ワイヤー矯正、裏側矯正の場合は、歯の表面にブラケットと呼ばれる装置をつけてワイヤーを通します。
部分矯正では歯を動かすためのスペースを作るためにIPRと呼ばれる処置を行います。IPRを行うタイミングは治療計画の中に含まれています。
IPRは、歯と歯の間を削る処置のことで、部分矯正では良く行われます。前歯の両端のエナメル質の部分を僅かずつヤスリのような器具で削っていきますが、エナメル質には神経がありませんので、通常は痛みは出ません。エナメル質が薄い方の場合、稀に知覚過敏のようなしみが起こる場合があります。
5. 保定期間
矯正治療が終わって歯並びがきれいな状態になったら、矯正装置を外し、歯並びを固定させるためのリテーナーをつける保定期間に入ります。
矯正治療直後の歯は骨の中に固定されておらず、動きやすい状態になっています。そのためリテーナーを使わないと歯並びが後戻りを起こします。リテーナーの使用期間は矯正治療にかかった期間と同程度です。
保定期間が過ぎたら、3ヶ月に1度程度の頻度で定期健診(メンテナンス)に通って頂き、虫歯や歯周病の予防を行います。
部分矯正ってどんな治療?に関するQ&A
部分矯正と全体矯正の主な違いは、治療の範囲と目的です。部分矯正は主に前歯の数本だけを対象とし、主に見た目の改善を目指します。これに対し、全体矯正は歯列全体を動かして治療し、ほとんどの不正咬合を治すことができます。部分矯正は治療期間が短く、費用も抑えられるが、奥歯の噛み合わせの改善は期待できません。全体矯正では、治療期間が長く、費用が高くなりますが、奥歯の噛み合わせを含めた全体的な咬合の改善が可能です。
IPR(Interproximal Reduction)は、歯と歯の間を削る処置です。部分矯正では、特に前歯の両端のエナメル質をヤスリのような器具で削ります。これにより、歯を動かすためのスペースが作られます。エナメル質には神経がないため、通常は痛みはありませんが、エナメル質が薄い場合は知覚過敏のようなしみが起こることがあります。
矯正の治療が終了した後の保定期間は、矯正装置を外した後に歯並びを固定させるために設けられます。この期間中は、リテーナーと呼ばれる装置を使って、矯正によって動かされた歯を安定させます。矯正治療直後の歯は骨の中に固定されておらず動きやすいため、リテーナーの使用が不可欠です。リテーナーの使用期間は通常、矯正治療にかかった期間と同程度で、その後は定期的な健診が推奨されます。
まとめ
部分矯正は、特に前歯の軽度の不正咬合を対象とした治療で、ワイヤー矯正、裏側矯正、マウスピース矯正などの方法で行います。治療期間は全体矯正に比べ短く、費用も抑えられます。目立たない方法も選べるため、日常生活への影響が少ないのが魅力です。
各治療法には独自の特徴とメリットがあり、患者の状態やニーズに応じた最適な治療計画が立案されます。
部分矯正治療については、以下の2つの論文が参考になります。
1. 「Treatment of migrating teeth with removable appliances」では、歯の病的な移動を補正するために、成人の矯正治療方法として、矯正アタッチメントが付いた部分義歯を使用したケースを紹介しています。この治療法では、固定義歯が施されるまでの間、部分義歯を一時的な保持スプリントとして使用していました。【Newman, 1966】
2. 「Treatment for predictable multidisciplinary implantology, orthodontics, and restorative dentistry」では、部分的に歯がない状態の患者において、インプラント、矯正、および修復歯科の各分野を組み合わせた多分野に渡る治療が、美容と機能の両面で改善をもたらすことを論じています。この記事では、部分的な両側の歯の欠損に対する治療計画と、矯正と修復処置との関連でのインプラント配置を説明しています。【Francischone et al., 2003】
これらの研究に基づくと、部分矯正治療は、特定の歯の移動や位置の補正を目的とし、インプラントや修復歯科治療と組み合わせて行われることがあります。また、取り外し可能な義歯や部分義歯を用いて一時的な保持や矯正を行うこともあります。