矯正治療後は歯列が後戻りを起こしやすい状態です。歯並びをきれいに整えても後戻りを起こしてしまう場合の原因や予防方法についてご説明します。
歯列矯正後の後戻りとは
矯正治療を受けた後、歯の位置が元に戻ってしまう現象を「後戻り」と呼びます。矯正治療によって整えられた歯並びは、時間が経つにつれて少しずつ変化することがあります。これは、歯を動かした直後の歯が安定していない状態のためです。後戻りが発生すると、せっかくの矯正治療の成果が損なわれるだけでなく、再度の矯正治療が必要になる場合もあります。そのため、矯正治療終了後も定期的なメンテナンスやアフターケアが重要です。
後戻りの原因とそのメカニズム
後戻りが起こる理由は、矯正によって歯が移動するメカニズムと密接に関連しています。
後戻りが起こる原因とは?
後戻りが起こる代表的な原因は下記のようなものです。
生理的な歯の移動
歯は常に小さな力によって自然に動いています。特に矯正治療後は、歯が移動したばかりのため、周囲の組織が新しい位置に馴染んで歯の位置が固定されるまで時間がかかります。歯は元の位置に戻ろうとする傾向があるため、これを防ぐためには、矯正治療終了後も一定期間、保定装置(リテーナー)の使用が推奨されます。
生活習慣や習癖の影響
歯ぎしりや食いしばり、舌で歯を押す癖など、日常生活での習慣が後戻りの原因となることがあります。これらの習癖は、歯に不自然な力をかけ、せっかく矯正で整えた歯並びを崩してしまう可能性があります。
歯が動く仕組みとは?
矯正では歯に力をかけることで、歯根膜の繊維が伸び縮みします。歯が動く方向に接している歯根膜は歯が動く力で縮み、縮んだ歯根膜に接している歯槽骨は吸収し(溶け)ます。逆側の歯根膜は伸びて、伸びた方に接している歯槽骨は再生されます。
治療中にはこの歯槽骨の吸収と再生が絶え間なく起こっているため、矯正直後の歯はまだ骨や周囲の細胞の状態が安定しておらず、歯の位置を固定するためには、保定装置(リテーナー)の装着が必要になります。
リテーナーの役割
矯正治療後は、リテーナーを用いた保定期間が必須です。リテーナーを担当医の指示通りに装着することが後戻りを防ぐ鍵となり、リテーナーの使用期間は1~3年に及ぶことが多いです。
リテーナーの種類とその使用方法
リテーナーには様々な形のものがあり、不正咬合の種類等により担当医がどのタイプにするかを選びます。使用期間と方法は治療後の半年~1年間は常時装着し、その後は就寝時や週に数日のみの使用に移行することが一般的です。
後戻りを起こしやすい人の特徴
1. リテーナーを装着していない
矯正治療後にリテーナーを使用しないと、必ずと言っていい程、後戻りが起こります。リテーナーを使用しない、または担当医の指示通りに使用していないことは、後戻りのリスクを高めます。
担当医から指示された期間の使用が必要です。
2. 歯並びを悪化させる習慣を持つ人
歯並びを悪くする癖というものがあります。これが原因で不正咬合を起こしていた場合は、癖を治す必要があります。
- 指しゃぶり
- 口呼吸
- 舌で歯を押す癖
- 舌を突き出す癖
- 片側で噛む
- 爪や唇を噛む
- 歯ぎしり・食いしばり
このような無意識で行う癖が不正咬合や後戻りの原因となりますので、出来るだけ矯正中にこれらの習慣を改善するようにしましょう。
3. 過去に部分矯正を受けた
部分矯正は一部の歯のみを動かすため、歯列全体のバランスを取ることが難しく、後戻りのリスクが高くなります。
4. 成長段階で矯正治療を受けた
小児矯正を受けた場合、その後の子供の成長によって骨格が変化し、歯列の後戻りを起こすことがあります。子供の成長が完了するまでの間は経過観察が必要です。
5. 矯正治療後に親知らずが生えた
親知らずは、生え方によって抜歯時期が異なります。歯茎に埋まっていた親知らずが矯正治療後に歯を押し始め、歯列を乱す場合もあります。
後戻りを防ぐためには
1. リテーナーの使用
リテーナー(保定装置)は、矯正治療後に歯を新しい位置に保つために使用する装置です。これを適切に使用しないと、後戻りが発生しやすくなります。リテーナーには固定式と取り外し式の2種類があり、患者さんの状態に応じて担当医が使い分けます。特に初期の段階では、日常的にリテーナーを使用することが重要です。
2. 定期検診を受ける
矯正治療が終わっても、きちんと定期健診を受け続け、虫歯や歯周病から歯を守ると共に、歯並びの状態のチェックもしてもらいましょう。歯の位置が安定しているかどうか、歯垢がたまっていないかをチェックすることで、早期に問題を発見し対処することが可能です。
まとめ
矯正治療後の歯並びの後戻りは、リテーナーの適切な使用、悪い口内習慣の改善、そして定期的な検診により予防可能です。後戻りが起きた際には再矯正することも選択肢の一つですが、日々の予防が最も効果的な対策となります。きれいな歯並びを維持するためにも、治療後のケアを怠らないようにしましょう。
矯正後の後戻りとその防止方法に関して、以下の2つの論文が参考になります。
1. 「Relapse and retention after orthodontic treatment」では、矯正治療後の結果が不安定であり、元の位置に戻る傾向があることを指摘しています。この現象は「後戻り」と呼ばれ、歯周組織や歯肉組織が歯の移動により影響を受け、装置が取り外された後に再編成が必要となるため、維持が必要です。治療終了後の適切な保持方法の適用は、後戻りを防ぐために重要です。【Elih, 2017】
2. 「The controlled release profile of risedronate emulgel to inhibit relapse movement in orthodontic treatment」では、治療後の後戻りの防止にリセドロネートエムゲルの放出プロファイルを分析しています。リセドロネートエムゲルは、後戻りを抑制するための物質として分析され、制御された放出が観察されました。矯正後の後戻りを抑制するための局所的な薬剤適用の可能性が示されています。【Utari et al., 2022】
これらの研究に基づくと、矯正後の後戻りは歯周組織や歯肉組織の影響を受けるため、適切な保持方法の適用が重要です。また、リセドロネートエムゲルのような局所的な薬剤適用による後戻りの抑制も有効な方法として考えられます。